茨城県の大井川和彦知事は、記者会見で救急車の適正利用を進めるために「軽傷者の救急車有料化」を今年12月から導入する方針を発表しました。
ただし正確には「救急車の有料化」とはなく、「選定療養費」制度(保険外併用療養費制度)の活用であることを理解する必要があります。
「選定療養費」とは、医療機関の機能分化を促進するための制度で、200床を超える大病院に紹介状なしで受診する場合に適用される追加料金です。この制度の目的は、初期診療を地域のかかりつけ医が担い、高度な専門医療を大病院が担当することで、医療の質を向上させることにあります。
茨城県では、2024年12月からこの「選定療養費」制度を救急搬送にも適用する方針を発表しました。具体的には、200床以上の大病院に救急車で搬送された場合であっても、緊急性が認められない場合には、病院が患者から7,700円以上を徴収するというものです。この運用は都道府県単位では初の試みです。
この新制度導入の背景には、救急医療の現場が直面するいくつかの深刻な課題があります。茨城県内では、救急搬送の約60%が大病院に集中しており、そのうちの約半数が軽症患者です。これにより、重症患者の迅速な対応が困難になることが懸念されています。また、2024年4月から医師の時間外労働の規制が始まり、救急医療のさらなるひっ迫が予想されます。
なお、救急車の一回の出動に関わる費用は約4万5000円とされており、安易な救急車の使用は行政の負担増に直結します。
「選定療養費」を徴収することで、救急車の適正な利用が促進されると期待されています。具体的には、軽症の患者が救急車をタクシー代わりに利用することを抑制し、本当に必要な患者が適切なタイミングで医療を受けられるようにすることが目的です。三重県松阪市では、同様の制度を導入した結果、救急車の出動件数が減少し、救急医療体制の効率化が図られています。
高齢者や生活困窮者が救急車の利用をためらうことで、重症化するリスクがある点が懸念されています。このため、制度の運用にあたっては、適切な周知と理解促進が不可欠です。
茨城県では、救急車を呼ぶべきか迷った際には電話相談窓口「#7119」を利用が勧められています。このサービスは24時間365日利用可能で、看護師などが症状を聞き取り、救急車の利用が必要かどうかをアドバイスします。また、15歳未満の子どもについては「#8000」を利用することが推奨されています。