TX延伸 山本美和

来春3月、つくばエクスプレス(TX)が運賃値上げ

2026年3月、つくばエクスプレス(TX)の運賃が値上げされる見通しとなりました。これは開業から20年を迎える中、初めてとなる本格的な運賃改定であり、首都圏新都市鉄道株式会社は国に対して12.2%の平均改定率で申請を行っています。背景には、急増する設備更新需要と混雑緩和のための車両増強、さらには巨額の債務返済という経営上の大きな課題があります。
まず、通常の乗車券においては、初乗り運賃が現行の170円(きっぷ)から180円へ、またつくば駅から秋葉原駅までの運賃は、現在の1,210円から1,280円へと引き上げられます。定期券も同様で、通勤定期は割引率が現行の40.6%から37.4%に引き下げられることで実質的な値上げとなります。
一方で、今回の運賃改定には、子育て世代への配慮という観点も盛り込まれており、通学定期については割引率が60.4%から70.0%へと拡充され、値下げとなる区間が多数存在します。例えば秋葉原〜守谷間の1か月定期は20,090円から16,560円へと変更されます。
特に小学生向けの通学定期では、乗車距離が19キロを超える場合、一律5,000円とする制度も導入され、長距離通学家庭の負担軽減が期待されます。また、小児用ICカードに関しては、乗車距離が14キロを超えた場合の運賃が一律200円に設定されるなど、柔軟な価格設計が施されています。
運賃値上げの主な理由は、車両や鉄道施設の老朽化による大規模更新の必要性です。TXは最高時速130キロの高速運転を支えるための高度な技術を採用しており、設備の維持には相応の費用がかかります。さらに、2030年代前半には混雑緩和を目的とした「8両編成化」が計画されており、現在はそのためのホーム延伸工事や信号設備の更新などが進められています。その他にも、総合基地の拡張や新型車両(TX-4000系)の導入検討、保守におけるデジタル技術活用など、持続可能な運行体制を築くための取り組みが列挙されています。
加えて、TXは開業以来、公共交通としての効率性にも取り組んでおり、自動列車運転装置(ATO)や省エネ設備の導入、回生電力の活用など、省人化・省エネ化の技術投資も積極的に行ってきました。これにより、人件費率は大手私鉄よりも低く抑えられているなど、経営努力も並行して続けられています。
今回の運賃改定は、一方的な値上げとしてではなく、「安全・安定・安心輸送の持続的提供」と「子育て世代への配慮」を両立させる、いわば“選択的負担”の性格を有するものと位置づけられるでしょう。TXを愛用する沿線住民にとっては、利便性と安全性の向上と引き換えに、一定の負担増が求められることになりますが、それが未来への投資と捉えられるよう、同社の今後の取り組みに注視していきたいと思います。